岡部倫子氏の研究による「人事戦略と感情労働」

一般的に、集団の中の個人は複数の役割を持っており、それぞれの役割に期待される事柄は異なります。例えば父、夫、会社員、上司といった役割ですが、この役割に期待される事柄が本当の自分と合致しない場合を、役割コンフリクトと言います。コンフリクトとは葛藤という意味です。また自分の役割に期待される事柄が、どのようなものなのか、将来どうのように変化するのか、分りづらい場合を、役割のあいまい性と言います。
他方で、経営学における役割理論では、企業の規模が大きく複雑な組織であれば、組織内の命令系統も複雑になり、従業員がふたり以上の上司から指示を受け「役割コンフリクト」が発生する場合があるとされています。また企業間競争が激しい業界では、戦略の変更や人事制度改革などがあり、従業員は自分の役割が分からなくなる「役割のあいまい性」が発生する場合があるとされています。職場において役割コンフリクトがある場合は、無い場合と比較すると、従業員のパフォーマンスが低下して、企業の利益にマイナスの影響を与えます。また、役割のあいまい性がある職場でも、従業員は不満や不安から、パフォーマンスが低下し、同様に企業の利益にマイナスの影響を与えます。

岡部倫子氏は経営学の研究者で、フランスで航空MBAを、日本で博士を取得した経験を活かし、サービス企業と従業員の感情労働の研究を行っています。氏は、2017年に「感情労働と役割コンフリクト・曖昧性との相互効果」という論文を発表しました。感情労働は、社会学者ホックシールドの著書『管理される心: 感情が商品となるとき』により、広く知られた労働形態です。感情労働とは、肉体労働や頭脳労働とは異なり、主にサービスを提供する従業員が顧客を満足させるために、自分の感情をコントロールして、企業が望むような感情を表現することにより、顧客の満足度、すなわち企業価値を生み出す労働形態を指します。例えば、キャビンアテンダント、看護師、ウエイトレスなどが、不特定多数の顧客に対応する際に、自分の感情をコントロールして、常に親切な対応をします。近年は、サービスを提供する企業と従業員が増加しており、このような感情労働を必要とする職業は増加しています。

岡部氏によると、対人サービス従業員が知覚する役割コンフリクトと役割のあいまい性は、従業員の会社に対する信頼度を低下させ、また従業員が自分の本当の感情が分からなくなる「感情の枯渇」におちいるリスクを高めるます。近年、労働者の過労死やうつ病の増加が大きな社会問題となりました。国は対策に本腰を入れ、2014年には過労死等防止対策推進法が、議員立法で成立しました。他方で、多くの企業が、従業員の労働と心理状態を十分に把握して、最適な労働管理をしているのかというと定かではありません。特に、対人サービスを提供する従業員は、本来の感情をコントロールし笑顔で顧客に対応するなど、ストレスを蓄積しやすい業務を行っています。岡部氏の科学的アプローチと分析は、感情労働を行うサービス対人従業員のケアという観点からも今後の研究成果が期待されます。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

最新投稿記事

  1. 一般的に、集団の中の個人は複数の役割を持っており、それぞれの役割に期待される事柄は異なります。例えば…
  2. 1.地球温暖化による影響2.地球温暖化の原因1.地球温暖化とは?地球温暖化とは、地球の温度が上昇する…
  3. 「セカンドアース」この言葉を耳にしたことはあるでしょうか。セカンドアースはVR技術とブロックチェーン…
ページ上部へ戻る